「おい、声の音量を落とせ。音量上げられたところで、言葉が聞き取りにくいだけだ。」
胸倉を掴まれているというのに、完全にそれを無視した答えに、兵士がまた怒鳴ろうとした
のをエルネスは兵士の両頬を片手で掴むことで黙らせる。
「だから……声の音量は落とせって言ってるだろ。」
エルネスの声は静かだったが、完全に目はキレていた。その怒気におされて、他にいた兵士
達も口を紡ぐ。
「さっきの質問に答えろ、嫌なら回れ右してとっとと自分たちのお国に帰れ。」
エルネスの言葉に、先ほどまでの威勢を失った兵士達はお互いにどうするかと顔を見合わす
だけだった。その緊迫した空気を破る声が一つ―
「エル…ネス。」
それは、エルネスの後ろに隠されていたソルアの声だった。突然かかった子供の声に、エル
ネスも少し怒りが消えていくのを感じた。掴んでいた兵士の頬を離すと、兵士達の存在など
ないように、さっきの調子でくるりと振り返る。
「どうした?ソルア?」
その時兵士達にも、エルネスの後ろにいた子供の姿が見えた。そしてその姿に驚いていた。
「ソルア様!!」
「は?」
急に、声の調子が変わった兵士達に、気が抜けた声を出したのはエルネスだった。
「何、お前らこいつの知「ソルア様なぜこんなところに!!」
話を問答無用で切られ、今度はエルネスが動揺する番だった。ちなみに、当事者であるソル
アは表情を変えず、黙ったままだった。
「…ソルア…なんか言ったほうがいいと「そうなのですね、ソルア様。」
また言葉を遮られた形となった上に、エルネスはなんとなーく嫌な予感がした。そしてこう
いう予感がよく当たることも知っていた。
「そこにいる輩がソルア様をたぶらかしたのでありますね!!」
「………」
「己、月の民め我々を出し抜けると思ったのか!」
「………」
ちなみに説明しておくと、一度目の沈黙はソルアのもので、二度目の沈黙は若干引きつった
顔をしたエルネスのものだった。エルネスが否定をすぐにしなかったのは、どうせ言っても
聞かないだろうと思ったからである。攫ったのが、本当でも嘘でも先ほどまで兵士達につっ
かかっていた自分を正式に捕らえる理由になるのなら何だっていいというところだろう。エ
ルネスは一回はぁ、とため息をつくとソルアの方に顔を向けた。
「なぁ、あれの誤解どうにか解いてくんない?」
「………」
挿絵
「うん、お前に期待したって無駄だよな。」
疲れた顔で、ソルアの頭を二、三度撫でると、さて、どうやって誤解を解くかと考える。し
かし、その考えも無駄となった。





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